【産業革命レベルの変化!?】AIの発達で弁護士業務に起こることを考察

先日、「弁護士の仕事はAIに奪われるのか?」という記事を書きました。

結論としては、AIによって弁護士の仕事が奪われる(なくなる)ことは99.9%ありません。
実際ChatGPTに聞いてみても、同じ結論でした。
しかし、「なくなるかどうか」という話と、「影響を受けるか」「どのような影響を受けるか」という話は別ですから、今回は「影響」について深堀りします。
結論(僕の考え)
- 単純作業、定型業務、ルーティン業務、法令・判例などのリサーチなどの多くはAIによって代替可能になり、弁護士の業務負担は大幅に減ります
- 弁護士の業務負担が大幅に減ることで、弁護士は、より本質的な業務、家族と過ごす時間、趣味の時間、健康維持のための時間、人と交流する時間などが増えます
- これまでは事務スタッフに任せていた仕事をAIが行うことで、事務スタッフ自体を減らしたり、事務スタッフにしかできない仕事に集中してもらうことも可能になります
- AIを使いこなす弁護士と、これまでのやり方を続ける弁護士との間に大きな差が生じます
これから「ルール変更」が起こる

これまでも、各弁護士が様々な工夫をして効率化・合理化していました。
そして、とにかく多くの労働時間を投下することで、多くの事件を処理してきました。
もちろんそれは一定の効果がありますが、革命と呼べるほどのインパクトはありません。
ところがAIは、まさに革命と呼べるほどのインパクトがあります。
たとえば産業革命により、手作業から機械化が進みました。
全員が手作業で物を作っていた時代は、
- どれだけ早く手を動かせるか
- どれだけ効率的に作業できるか
- どれだけ良い道具を揃えられるか
- どれだけ長い時間を投下できるか
- どれだけ人を雇えるか
こういったことで差が出ます。
ところが機械化が進むと、どれだけ早く手を動かしても、どれだけ長時間働いても機械には勝てません。
どれだけ早く走れる人も、どれだけ重いものを運べる人も、車には勝てないのと同じです。
それまでは「早く手を動かせる人が勝者」だったのに、その勝利条件自体が変わった。つまり、競技のルール自体が変わったわけです。
弁護士業界で今起ころうとしていることも、同じだと思っています。
業務の具体的変化

僕は弁護士業界に長くいますが、常々「先生方は忙しすぎる」と感じています。
もちろんそれだけ依頼が多く、社会にとって極めて有意義な仕事をされている証拠です。
ただ、あまりに忙しすぎる結果、
- メールを返信する時間が取れない
- タスク自体を失念する/ミスが起こる
- 手が回らず期限を過ぎる
- 打ち合わせや相談日程がなかなか取れない
- 依頼者、相手方、裁判所などから催促される
- 電話を折り返す時間が取れない
- 連絡がつきにくい
- 準備書面で単純な自己矛盾を起こす
- 誤字脱字が多い
こういったケースを目にしたことは一度や二度ではありません。
常にギリギリの状態で仕事をした結果、心身の健康を崩してしまう先生もいらっしゃるはずです。
こういった状況は、個々の弁護士がどれだけ工夫しても限界があります。
ところがAIを使いこなすことで、特に単純作業、定型業務などに割く時間を大幅に減らすことができ、上記のような状況は改善されることが期待できます。
たとえば、
- 成年後見人が行う家裁への定期報告書類の作成
- 破産申立代理人・破産管財人が行う各種書類の作成
- 依頼者への請求書発行
- 送付状、請書などの定型書類の作成
- 判例・法令検索
- 多くの文献から該当箇所を探す
- 交通事故の損害計算
- 訴訟費用額確定処分の申立書作成
- 訴状案の作成(特に定型的要素が強いもの)
- 契約書チェック
- 裁判所との期日調整
- メールの作成
- 証拠説明書の作成
- 尋問事項のたたき台作成
こういった業務は、そのまま外に出せるレベルではないとしても、ある程度のところまでAIがやってくれる未来は十分考えられます(すでにサービス提供されているものもあります)
「結局人間が手を入れないといけないなら意味がない」と考える方もいらっしゃるかもしれませんが、たとえ5割の出来でも、なにかしら形にしてもらえると非常に作業が楽です。
もっと細かいところで言うと、
- 準備書面の中で引用している別の準備書面の該当箇所を自動表示してくれる
- 準備書面の中から日付に関する部分を抽出して時系列に並べてくれる
こういったことも、積み重なるとかなりの時間になります。
準備書面案を読み込ませて、「この書面に対して反論してください」と指示することで、予想される反論などが分かるかもしれません。
今、5分程度考えただけでもこれだけ出てくるので、もっともっとあるはずです。
おそらく、「この面倒な作業、誰かやってくれないかな」と思うことの多くが、AIによって代替されるんだと思います。
弁護士間の差が広がる

ここまで書いてきたことは、「放っておいても全ての弁護士がそうなる」ということではありません。
たとえば書面作成は、手書き→ワープロ→パソコンになり、裁判のウェブ化も進んでいます。
これは、もちろん対応しない弁護士もいますが、大きな流れとしては全ての弁護士がそうなっています。
ただAIに関しては、「使うかどうかは100%個人の自由」です。
AIを使えばどれだけ便利になろうとも、「自分は使わない」というのが通用します。
だからこそ、使う弁護士と使わない弁護士が二分され、その差は大きく開くはずです。
繰り返しますが、すべての業務がAIによって代替されることはありません。
法律相談、依頼者との打ち合わせ、依頼者への説明、示談交渉、和解協議、最終的な書面作成、現場を見に行く、尋問を行うなどは、弁護士が行う必要があります。
ただ、AIでもできることと、弁護士にしかできないことが区別され、弁護士は、弁護士にしかできないことに集中することで、より弁護士業務のクオリティが上がるのだと思います。
ただクオリティというのは可視化できないので、もっとザックリ言うと、「仕事が楽になる」「仕事のストレスが減る」ということです。
また、これまではメールの返信がなかろうと、期限を過ぎようと、タスクを忘れようと、遅刻しようと、「みんな忙しいから」「お互い様」ということで大目に見られていたことが、そうもいかなくなるかもしれません。
ちなみにChatGPTの回答は、次のとおりです。
AIは弁護士業務の一部を代替するが、完全に置き換えることはできない。むしろ、弁護士はAIを活用しながら、より高度な業務や依頼者対応に注力することで、新たな価値を生み出す必要がある。
「必要がある」というフレーズが非常に印象的です。

AIによって弁護士の仕事がなくなることは考えにくいですが、変化は必ず起こるはずです。
しかもその変化は、これまでの効率化や合理化のレベルではなく、産業革命のように、ルール自体を根本から変えるような変化だと思います。
僕なりに、AIが代替しうる具体的業務もあげてみました。